扉を開けた瞬間、草原と土の間を漂うような、どこか懐かしい香りが広がっていました。2026年6月3日、アロマ・フランス コレッジの蒸留会に福岡県八女市のベチバー農家・研究家をお招きし、16年の探求が結晶した「ベチバー」の蒸留と製品づくりの世界を体験しました。大地に深く根を張る植物が、どのようにして心身を整え、暮らしに溶け込んでいくのか——その対話の記録をお届けします。
16年の探求が語る、ベチバーという植物
今回の蒸留会にお迎えしたゲスト講師は、福岡県八女市でベチバーと出会い、16年にわたり栽培・研究・製品開発を続けてきた方です。最初は土留めとして使われていたベチバーを、3年間は用途も手応えもわからないまま育て続け、やがてその原産地であるレユニオン島へと渡り、現地の栽培法を学んできたといいます。
ベチバーの根は垂直に2.3メートルにも達しますが、日本では約30cmの長さで収穫するのが香りと成分のバランス上もっとも優れていることを、2年間にわたって毎月サンプルを採取し続けることで突き止めました。10年以上育てた株ほど深く豊かな成分をもつとされ、八女で13年間特産品として大切に育ててきたベチバーへの眼差しには、植物への深い敬意が宿っていました。
ベチバーとは
イネ科の多年草で、原産地はインド・マダガスカル周辺とされる。垂直に深く伸びる根が特徴で、土壌浄化・侵食防止に用いられるほか、根から採れる精油・ハイドロゾルは香りの世界でも高い評価を受ける。八女産は「草原と土の間」と表現されるような、軽やかで優しい香りが特徴。
大地に根を張ることの意味——グラウンディングの力
ベチバーの香りが心身に与えるもっとも大きな作用として紹介されたのが「グラウンディング」です。興奮した神経を静め、自分が今ここに存在することへの安心感——「今の自分で良い」という自己肯定感を自然に引き出す力をもつと、講師は話します。アーユルヴェーダの観点からは、第一チャクラや地球そのものと繋がる「ゼロチャクラ」に働きかける植物とされています。
40度近い猛暑や荒れた土地でも根を張り続け、土中の微生物を活性化させて土壌を豊かにしていくベチバーの性質は、そのまま私たちへのメッセージでもあると感じられました。厳しい環境の中で、自分自身の力で周囲を豊かにし、根を張って咲くことができる——ベチバーが「平和な未来」を指し示す植物と呼ばれる所以がここにあります。
消臭・防虫・湿気調整・睡眠の質向上といった、暮らしに直結する実用的な効能についても紹介がありました。冷蔵庫に入れれば庫内の匂いを吸収し、乾燥させれば繰り返し使える。ゴキブリが嫌う成分を含み、巣の近くに置けば虫除けにもなる。生活の中にそっと溶け込む、静かながら頼もしい存在です。
ベチバーのことを、どのくらい知っていますか?
蒸留会の内容から、ベチバーにまつわる5つのクイズをご用意しました。講義を思い出しながら、ぜひ挑戦してみてください。
Quiz 01
ベチバーの根は、最大でどのくらいの長さまで伸びるでしょう?
① 約30cm ② 約1メートル ③ 約2.3メートル
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正解:③ 約2.3メートル
ベチバーの根は垂直に2.3メートルにも達します。その強靭さゆえ、手で引き抜くことは極めて困難。日本では香りと成分のバランスがもっとも優れる「30cm」の長さで収穫するのが最適とされています。
Quiz 02
蒸留直後のハイドロゾルは、使用前に何ヶ月以上の熟成が必要とされているでしょう?
① 1ヶ月 ② 3ヶ月 ③ 6ヶ月
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正解:② 3ヶ月
蒸留直後は成分が「暴れている」不安定な状態。常温の冷暗所で最低3ヶ月間寝かせることで、香りが落ち着き真価を発揮すると言われています。今回の参加者には蒸留したてのハイドロゾルが配布され、9月3日まで熟成させる「宿題」がついてきました。
Quiz 03
今回の蒸留は何度以下の低温で行われたでしょう?
① 50度以下 ② 80度以下 ③ 100度以下
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正解:② 80度以下
特注の減圧蒸留器を使うことで、熱に弱い繊細な芳香成分を損なわずに抽出できます。また、粘性の高いベチバー精油が詰まらないよう、冷却装置(セパレーター)をあえて冷やしすぎず温かく保つという職人的な工夫がなされています。
Quiz 04
ベチバーのハイドロゾルのpH値は、蒸留が進むにつれてどのように変化しましたか?
① 6.5 → 7.2(アルカリ性へ) ② 6.5 → 6.1(酸性へ) ③ 変化しない
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正解:② 6.5 → 6.1(酸性へ)
蒸留が進むにつれてpH値は6.5から6.1へと変化しました。成分が凝縮されていく過程が、数値として確認できた場面でした。微量の精油は2回目と4回目の蒸留で確認されています。
Quiz 05
ワークショップで作成した二層式美容液に使用したオイルはどれでしょう?
① ローズヒップオイル ② アルニカオイル ③ カレンデュラオイル
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正解:③ カレンデュラオイル
フランス産の高品質なカレンデュラオイルとベチバーハイドロゾルを組み合わせ、ベチバー精油を2〜3滴加えた二層式美容液を参加者一人ひとりが調製しました。使う前に振り混ぜて使うパーソナルケアアイテムです。
蒸留の現場——低温でしか届かない香りの真価
今回の蒸留会では、特注の減圧蒸留器を用いた80度以下の低温蒸留が披露されました。熱に弱い繊細な芳香成分を守るためにこの温度帯が選ばれており、通常の水蒸気蒸留とは異なる、フレッシュで透明感のある香りが引き出されます。
ベチバーの精油は粘性が高いという特徴があります。そのため冷却装置(セパレーター)をあえて冷やしすぎず、温かく保つことで流動性を確保する——という専門的な工夫が必要だと講師は説明します。蒸留が進むにつれ、ハイドロゾルのpH値は6.5から6.1へと変化し、2回目と4回目の蒸留で微量の精油が確認されました。
熟成という時間の贈り物
蒸留直後のハイドロゾルは成分が「暴れている」不安定な状態にあります。常温の冷暗所で最低3ヶ月間寝かせることで、香りが落ち着き、真価を発揮すると講師は話します。今回の参加者にも蒸留したてのハイドロゾルが配布され、自宅で9月3日まで熟成させてから香りの変化を確かめる、という特別な宿題がついてきました。
自分だけの二層式美容液——手を動かして知る、ベチバーの力
ワークショップの後半は、ベチバーを使った美容液づくりの実践です。フランス産の高品質なカレンデュラオイルとベチバーハイドロゾルをビーカーに合わせ、そこへベチバー精油を2〜3滴加えて撹拌します。二層式になった液体を使う前に振り混ぜて使うこの製品は、その日の自分の感覚で成分の比率を調整できる、究極のパーソナルケアです。
不織布シートにハイドロゾルをたっぷり含ませる「ビオマスク」の作り方も紹介されました。アトピー性皮膚炎のケア、日焼け後の炎症鎮静、筋肉の緊張緩和——ベチバーが皮膚と心の両面に働きかける「レスキューシリーズ」としての活用法を、参加者は自分の手で体感していきました。
ベチバーには、他の香りを引き立て全体を調和させる「ベースノート」としての特性もあります。単体で使うだけでなく、ブレンドの土台として機能する香り——それはちょうど、深い根が地上の植物を支えるように、私たちの日々の感覚を静かに整えてくれるのかもしれません。
ドミニク先生からのコメント
Dominique · アロマ・フランス コレッジ 校長
ドミニク
ベチバーの根が詰まった袋に顔を近づけた瞬間、その香りの深さに思わず言葉を失いました。土から生まれた命の声が、そのまま凝縮されているようで。16年間、この植物と誠実に向き合ってきた方の仕事には、植物への本物の愛情が宿っています。
蒸留というプロセスは、植物が生きてきた時間の「翻訳」です。香りを嗅ぐとき、私たちはその植物が根を張ってきた土地の記憶を受け取っています。ベチバーのように、ゆっくりと深く根を下ろすことを、現代の私たちはもっと大切にしてよいのではないでしょうか。
Distillerie · 季節の植物を学ぶ蒸留会
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季節の植物をアランビックで蒸留し、ハイドロゾル(芳香蒸留水)を手作りするワークショップです。
植物の声に耳を澄ませる、特別な一日をご一緒しませんか。
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文責:アロマ・フランス コレッジ
運営:アロマ・フランス株式会社
https://www.aromafrance.net/
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