「愛されたいけれど、触れられすぎたくない」——そんな矛盾した気持ちを、植物が抱えているとしたら。今回のクラリセージ蒸留会は、そんな不思議な言葉から始まりました。高槻の畑で農薬を使わず、声をかけながら育てられたクラリセージ。その粘り気のある葉に触れながら、参加者の皆さんと一緒に、植物の「曖昧さ」という知恵をたどる一日になりました。
「曖昧さ」という、クラリセージの生存戦略
クラリセージの葉や茎に触れると、独特のベタつきを感じます。この正体は、精油成分を含む樹脂質の「腺毛」。虫を呼び寄せて受粉してほしい気持ちと、来すぎると困るという食害への警戒心——その相反する思いが、この粘り気に表れているのだそうです。「曖昧な気持ち、それが植物の難しさであり面白さ」と先生。境界線を大切にしながらも、誰かとつながろうとする植物の在り方に、思わず自分自身を重ねてしまう瞬間でした。
本来は冬を越して力を蓄える二年生植物ですが、日本の気候では蒔く時期によって一年生のように振る舞うこともあるのだそう。ロシアから地中海沿岸まで、世界中の厳しい環境に適応してきたサルビア属ならではの、しなやかな生命力を感じさせるエピソードでした。
「1:1」にこだわった、仕込みの手仕事
今回使用したのは、少し乾燥させて水分を抜いたクラリセージ。生のままだと水分が多く成分が薄まってしまうため、あえて乾燥させることで香りを凝縮させます。茎を細かく砕いて蒸気の通り道をつくり、水蒸気蒸留と水蒸留を組み合わせた「コンボ蒸留法」で仕込みました。「1kgの植物から1Lのハーブウォーターを得る」という1対1の比率にもこだわり、香りだけでなく成分の濃さも大切にした一日でした。
火加減が、すべて
蒸留中、先生が繰り返し強調していたのは「火加減がすべて」ということ。釜の中で水が「くるくる」と回る音に耳を澄ませながら、弱火でじっくりと成分を引き出していきます。激しすぎず、弱すぎず——五感を研ぎ澄ませる時間そのものが、蒸留会の醍醐味です。
琥珀色に変わっていく、ハーブウォーター
蒸留が進むにつれて、採れるハーブウォーターの表情も変わっていきます。最初は爽やかながらも少し尖った香り。中盤になると甘みが立ち、香りに落ち着きと奥行きが出てきます。そして後半には、深く穏やかなフローラルの甘さへ。酸性度もゆるやかに変化し、肌に近い弱酸性へと落ち着いていく様子は、まさに「熟していく」という言葉がぴったりでした。
クラリセージの、暮らしでの活かし方
クラリセージのハーブウォーターは、女性のリズムに寄り添うハーブとして知られています。生理周期や更年期など、体調が揺らぎやすい時期のセルフケアに取り入れる方も多く、優しく包み込むような香りが心を落ち着かせてくれます。数滴を水に混ぜてマウスウォッシュとして使うなど、口まわりのケアに取り入れる楽しみ方もあるそうです。
また、記憶や気持ちの寄る辺なさに、そっと寄り添ってくれる香りとしても知られています。「クラリセージは自分の中の自分を見つけるようにお手伝いしてくれる」——先生のこの言葉が、印象に残っている参加者も多かったようです。
参加者の学びと、小さな体験談
実習中には、植物療法の実践的な活用エピソードも紹介されました。詳しい内容はここでは控えますが、クレイとハーブウォーターを組み合わせた応急ケアの体験談は、「何を、どう組み合わせるか」という視点の大切さを教えてくれるものでした。
今年は植物の成長が例年より早いという声もあり、カレンダーではなく植物そのものを観察することの大切さも、あらためて感じる一日となりました。
ドミニク先生からのコメント
「植物は動かないと言われているけれど、実際は立派に動いている。人間や動物、風を使い、種や根っこで移動する」——先生はそう話してくれました。受け身に見える植物も、実はしなやかに環境を利用しながら生き延びている。クラリセージの粘り気にも、そんな能動的な知恵が宿っているのかもしれません。
今回蒸留したクラリセージ・ウォーターは、3週間ほど熟成させることで、さらに香りが円熟していきます。次回は「ワイルドキャロット」の種の蒸留を予定しています。花とはまた違う、種に凝縮されたエネルギーにどうぞご期待ください。
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